東京家庭裁判所 昭和32年(日記)2号 判決 1958年5月23日
債権者 伏見よし江(仮名)
債務者 長岡修二(仮名)
主文
当裁判所が昭和三十二年仮処分日記第一号仮処分申請事件について昭和三十二年九月二十七日附為した仮処分決定はこれを認可する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
事実
債権者は主文第一項同旨の判決を求め、その理由として、
債権者は昭和二十六年○月○日債務者と婚姻し、その間に一男(昭和二六年○月生)一女(昭和二七年○月生)を儲けたものであるが、昭和三十二年○月○○日子の親権者を何れも債権者と定めて協議離婚をした。
離婚の原因は債務者は女関係が多く、そのため生活費をいれずその上絶えず債権者に対して暴行虐待をするので、債権者は結婚生活に耐えられず、已むなく離婚したものである。尚債権者が債務者と結婚するに至つた事情は当時債務者と同じ会社に勤めていた関係上知合い、互に情を通ずるようになつたが、その頃債務者には妻子があつたのでその離婚手続を了した後前述のように結婚届をしたものである。
離婚に際して慰謝料、財産分与、子の養育費等については別にとりきめがなされなかつたが、離婚の責任は前述のように債務者にあるので、財産分与及養育費の請求について東京家庭裁判所に調停申立て目下手続進行中である。ところが、債務者は債権者が近所にいては妻を貰うことができないので、その家屋敷を売却して他に移居すると公言しているので、これらの調停事件の結果まで待つていては、債務者はその所有名義の不動産一切を処分しそのため財産分与、子の養育費などを受け得られなくなるのでその所有に係る(イ)東京都北区○○町○丁目○○○○番地二の宅地三〇坪三合四勺及び(ロ)同所所在の木造瓦葺平家建居宅一棟建坪九坪について処分等禁止の仮処分を求めると云うのである。次に財産分与については、離婚当時の債務者名義の主な財産は、仮処分不動産である前記(イ)(ロ)の土地建物と(ハ)東京都北区○○所在の賃借店舗における貸本屋営業(四畳半の土間)であるが、妻である債権者には特に身廻品の外は財産はない。
これら債務者名義の財産は何れも夫婦協力の結果蓄積されたものであつて、その事情は次の通りである。即ち債権者と債務者の結婚当時当事者夫婦は北浦和にて間借りをしていたが、昭和二十六年十一月○○○所在の家屋を買受けてここに移居することになり、その買受に際して債権者は結婚前に勤めていた会社からの退職金と失業保険金を合せた所持金七、八万円を支出して、債務者を援助し債務者名義で買受けたものである。買受代金は二十八万円で、即金二十五万円残金三万円は月賦弁済の約であつた。本件(イ)(ロ)の土地、家屋は昭和二十七年五月金二十一万円にて買受け、ここに移居したものであつて、その買受代金は前記○○○の家屋の処分代金二十八万円から支出したものである。尚買得余剰金は七万円位あつて、その内三万円は債務の弁済に当てたが、その他については債務者は一夜に三万円位を飲酒等に浪費したような次第である。
前記(ハ)の○○駅前所在の貸本屋店舗については、債務者には先妻の子がいたので、債権者との間の子の将来のため賃料四千五百円にてこれを借受けたものである。従つて、債権者も同所にて店番をしたこともあつた。
次に債権者の親権下にある子女二名の養育費については、その後債権者が債務者を相手方として養育費分担についての調停を申立て、その調停手続中臨時月月三千円の支払をうけることに約し、昭和三十三年一、二、三月分の支払をうけたが、四月分については末だ受領していないという事情である。
債務者の経歴職業については、結婚当時債務者は東北大学中退と自称していたが、真実か否かは疑わしい。債務者は現在経理事務所を経営しているが、当人は無資格者であるので、他人名義を借りている様子であり、その収入は月十万円位あるとのことである。従つて以上の事情から財産分与として債権者の希望は百万円程度の支払を受けたいと考える。その他債権者の主張に反する債務者の主張事実を否認すると述べ、疎明方法として疎甲第一、二号証の各一二、第三乃至六号証を提出し、証人山田清助、山下清二の尋問を求め、債権者本人尋問の結果を援用し、疎乙号各証は不知と述べた。
債務者は本件仮処分決定を取消す、債権者の申請を却下するとの判決を求め、その異議申立の理由として債権者との結婚に至る経緯の債権者主張の通りであること、親権者を母と定めて債権者主張の日時に離婚したこと、並に債務者名義の資産として債権者主張の通り(イ)(ロ)(ハ)の財産のあることは争わない。しかし離婚責任が債務者に在るとの点、その他債務者名義の財産蓄積についての事情、債務者の取入等に関する債権者の主張事実は争う。即ち、債務者が債権者と離婚するに至つたのは、債務者に女性関係とか暴行虐待のあつたためによるものではない。尤も、債務者が債権者に対して暴力を振つた事実はあるけれども、それはそれ相当の正当な事由があつたものであつて、決して理由なく暴行を加えたものではない。債務者が債権者と離婚するに至つた近因となる事情は、昭和三十二年○月○日夕刻債権者の妊娠調節に関することから発端して口論となり、債権者は家を飛び出し、交番にかけこむなどしたが、その後債権者の方から離婚届書を作成して債務者に署名押印を求めてきたので、これに応じたものである。従つて離婚届作成に際して財産関係の問題には何等触れなかつたが、養育費の事については○福祉事務所で係員に子供一人について月々千五百円、合計三千円を支払うことを承認したものである。しかしその後において債権者は債務者の兄に対して電話にて子の養育費などその他を貰うと将来、子に対して云い掛りをつけられるから困ると云つて、これら一切の財産的請求を放棄したものである。
又債権者主張の(イ)(ロ)の財産蓄積の事情については、以下のような経緯によるのであつて、これに対する債権者の貢献はない。即ち債務者は結婚前から所有していた埼玉県○○町所在の十二坪の家屋を結婚に際して金二十九万円で処分し、内金七万円は借金の弁済に充て、残金二十万円余を所持していたので、其の所持金の中から権利金等を支払つて北浦和にアパートを借受け債権者と結婚同棲生活に入つたものであつて、当時債権者が七、八万円の金員を所持していたという事実は全然ない。従つて其の後○○○所在家屋の買入れも債務者だけが出金したものである。又債権者主張の前記(イ)(ロ)の土地家屋は○○○の家屋の処分代金にて買受けたものであつて、買受代金は、二十三万円であるが即金十八万円を支払つた残金は割賦弁済中であり、現在尚未払分は三万円位ある。しかし叙上のようにこれらについて何等債権者の出資援助をうけた事実はない。
又債務者が本件(イ)(ロ)の土地建物を処分するといつたことは争わないがそれは、債権者が離婚後債務者の商売の邪魔をしてやるというので、本件家屋を処分して何処か適当な所に行きたいと考え、人にその旨語つたことがあるためであつて、それには財産隠匿の意思はない。
債務者の学歴は旧制山形高校文科二年中退である。職業として債権者の云う通り計理士の資格がないので知人の計理士の印を借用して記帳業を営んでいるものであつて、収入については結婚当時は月六万円位あつたが、法律的に資格がないので、漸次収入減少し、昨今月四万円位である。又その他債務者の主張と反する債権者の主張事実は否認すると述べ、
疎明方法として疎乙第一乃至三号証を提出し、証人細川玲子、長岡太郎の尋問を求め、債務者本人尋問の結果を援用し、疎甲第一乃至二号証の成立を認め、疎甲第三乃至五号証は不知と答えた。
理由
仍て先ず本件仮処分の管轄裁判所について考究するに、財産分与等の審判を本案とする民法上の仮処分事件が家庭裁判所の管轄に属するかについては問題のあるところであるが、これを積極に解すべきこと、本件仮処分決定附加理由中に説示したところであるから、ここにそれを引用する(民訴三九一条準用)。
ただ家事審判規則第五六条の二において、財産分与の審判申立があつたときには、分与すべき財産の保全について又同規則第九五条において扶養処分に関する審判申立があつたときには扶養権利者の生活又は教育について、夫々臨時必要な処分ができ、(その他例えば同規則二三・七四条等は同趣旨の規定である)同上事件について調停の申立があつたときには、これら調停のため必要とする処分を命ずることができる旨(家事審判規則一三三条)の規定があるので、これらの規定は仮処分の特別規定であるから、家事審判を本案とする民訴法上の仮処分は認められないものとの見解もあるやに聞知されるが、元々審判前の臨時必要処分については、執行力は勿論のこと、調停前の仮の措置、処分のように間接強制力すらも否定せられること通説の承認するところであり、従つてその形成力についても、同様それが規則制定権の範囲を逸脱したものとして、その効力を否定すべきものと解せられるばかりでなく、仮りにこれらの臨時必要処分について、その効力が認められるとしても、これがため民訴法上の仮処分を許さないとする理由のないこと民事調停法において仮の必要処分が認められるにも拘らず、尚一般民事訴訟法上の仮処分、仮差押の許容せられることに徴しても明らかである。
次に仮処分事件が家庭裁判所の管轄に属するとしても、被保全請求権は財産分与、扶養処分の如き形成されるべき権利で足るかという点が問題となろう。それは保全処分については既存の権利関係の判断を本案訴訟とするもの、換言すれば確定されるべき権利関係の存在を前提とするものであつて、権利関係を新に創設形成するもの、例えば家事審判法その他非訟事件手続法により形成保護される権利は被保全請求権となり得ないとの見解が広く行われているからである。
しかしながら苟も権利実現のため必要のある限りは、保全手続を認めるべきであつて、仮処分による被保全請求権が確認されるべき権利関係に限り、形成創設される権利関係については被保全請求権となり得ないとうそぶき、国民の権利保護をおろそかにするのには、正しい法の解釈ではない。而して現に財産分与或は扶養処分その他の審判手続については慣行上訴訟手続のように、裁判確定迄に長日時を必要としないとしてもその審判確定迄には若干の日時を必要とするから、その裁判確定前に保全手続の必要のあること家事審判規則中に前述した各種臨時必要処分に関する規定が設けられたことによつても明らかである。それにも拘らず被保全請求権は確認裁判(給付裁判を含めて)により保護される権利でなければならぬとするときには、財産分与或は扶養等の権利については、一応その審判によつて権利内容を創設、形成した上で、これが創設形成された請求権保全のための仮処分、仮差押を求めるべしということになり、誠に迂遠な手続を経なければならず、その結果は権利保全の時期を失するいうことになる。そのため財産分与請求権保全を図るためには、殊更財産分与という形をとらず、自己の所有権確認或は預け金の返還を求めるという法律関係にこじつけて、保全手続を図らなければならないということになるので、権利者はその権利関係の主張立証に非常な困難を感じ、折角法がこれらの点を慮つて設けた財産分与制度の利益にあずかり得ないということになる。従つて保全の必要がある限り、その被保全請求権が財産分与等審判手続にて形成せられる権利であつても、必要に応じて保全処分は許容されなければならないものと解する。仍て本件債権者の仮処分申請の当否について以下に判断することにする。
債権者と債務者が昭和二十六年○月○日婚姻しその間に一男一女を儲けたが、昭和三十二年○月○○日子の親権者を母として離婚届の提出されたこと、又離婚当時及び尚現在において債務者名義にて(イ)東京都北区○○町○丁目○○○○番地二宅地三〇坪三合四勺、(ロ)同所所在の木造瓦葺平家建居宅一棟建坪九坪の不動産と(ハ)東京都北区○○所在の賃借店舗(四畳半の土間)における貸本屋営業のあることは当事者間に争なく、又債権者については、特に資産と見られるようなものを所有していないことは当事者弁論の趣旨に徴して明らかである。
そこで先ず債権者債務者間の財産分与について、その分与を求める権利が何れ側に在るか、又その内容方法はどうあるべきかを検討するに、債務者は債権者においてこれら分与請求権を放棄した旨抗争するけれども、証人細川玲子及び長岡太郎の各証言ではそのことを認め難く、又この点についての債務者本人の尋問の結果は措信できない。その他にこれを認める疎明資料がない。尤も離婚折衝に際して債権者は感情の激化していたことと子の処置養育等のみ念頭にあつたため、特に財産分与について思を到さなかつたことは、前記証人細川玲子の証言並に債権者本人の尋問の結果によつて推知されるところであるが、これがため財産分与請求権或は慰謝料等損害賠償請求権を放棄したとみるのは妥当でない。
それで債権者において分与請求権を失つたものでないとすれば債権者は如何なる分与を求めることができるかというに、財産分与は家庭裁判所の審判手続によつてのみ確定されるものであるから、仮処分判決手続では一応家庭裁判所の審判手続で形成されるであろう分与内容の種々の場合を想定して、これが保全の必要の有無を検討する外はないと解するところ財産分与の額並に方法を決定するについての斟酌事情となる主なるものとして次の事情をあげることができる。
財産蓄積についての夫婦協力の事情として、本件当事者の結婚同棲期間が、約六年であつて、その間に二子を儲けたことは当事者間に争なく債権者はその間家事労働と育児の外、○○所在の貸本屋店舗にての営業にも従事し、且又同棲中数回に亘り、生活安定のため掻破手術を行い、そのため著しく健康を害する迄に至つたこと並に前記(イ)(ロ)の土地家屋を所有するに至つた事情についてもそれは主として債務者が出捐したものであるが、債権者も尚若干の金銭を支出援助したことは当事者双方の各本人尋問の結果によつて認められる(但し各当事者本人の尋問の結果中、(イ)(ロ)の資産蓄積について、債権者は自己の所持金八万円を出捐したという点、又反対に債務者は右不動産取得について、債権者からは何等の金銭的寄与はなかつたとする点は何れも措信しない)
尤も証人山下清二の証言により成立を認める疎乙第二号証一、二並に債務者本人の尋問の結果によれば、債権者は投書その他によつて債務者の仕事を妨害したかのようなことの疎明が得られるけれども、仮りにそのような事実があつたとしても、それは離婚後の事であつて、離婚後の扶養としての意味の財産分与等においては、或は分与内容決定の斟酌事由とされることもあろうが、資産蓄積についての事情としては関係はない。
離婚後の生活扶助としての意味の財産分与は生活に予猶のある配偶者又は離婚有責者において、生活能力の乏しい離婚無責者に対して分与義務を負担すべきものと解するところ、本件離婚原因については、債権者自身も気が強く、そのため夫婦間のいさかいを激化したことは否定できないが、夫である債務者の不貞行為と、生活費を十分に出さなかつたことが、その他の事情と関連して遂に婚姻を破綻に導いたとみるべきこと、証人山田清助の証言により成立を認める疎甲第六号証並に同証人山下清二の各証言及び債権者本人の尋問の結果を綜合して認められる(右認定に反する部分殊に債権者にも婚姻中不貞行為があつたと云う債務者本人の尋問の結果は信じられない)。従つて、債権者本人にも多少咎められるべき事情があつたとしても、離婚責任の多くは債務者が負担すべきと断ずべきところ、債権者において有責離婚者である債務者に対して特に慰謝料等の請求を求めていない点、その他当事者双方に争のない債務者は法定の資格がないため、他人名義にて経理記帳事務に従事し、月収少くとも月四万円(債権者は七、八万円という)位あるが、債権者が無職であり子女と共に生活保護をうけている事実並に成立に争のない甲第一号証の一、二により認められる当人及び子の年令、現況、並に当事者双方の本人尋問の結果を綜合して認められる前記(イ)(ロ)(ハ)の資産内容状況その他本件記録にあらわれた一切の資料を綜合するときは、債務者は債権者に対して相当の財産分与を為すべき義務あるものと謂うことができる。
而して財産分与の内容方法としては、叙上認定の事情から考究するときには金銭給付によるのが相当と思料されようが、それが年金の形をとるときには、そのためには本件仮処分不動産について債権確保のための抵当権設定登記の必要もあろうし、若し又一時金の支払を以てするときには、債権確保のための保全処分として仮差押の必要もあろう、或は分与の方法としてその不動産自体の全部又は一部の分与方法のありうること必ずしも否定できないので、これが保全手続として仮処分を求めることは、保全の必要のある限り不当ではない。(尤も財産分与として金銭給与にとどまるときにはその保全手続は仮差押であるべきであるが、本案審判にて或はその物自体に対して、又はそれに関連した分与あることも予定せられるので、この両者の目的を達するためには仮処分によるのも已むを得ない)。
それでは本件債務者に対して保全手続を求める必要があつたかというに債権者本人尋問の結果により成立を認める疎甲第五号証並に債務者本人尋問の結果に徴し理由はともあれ債務者は本件不動産を処分しようとの意企のあつたことを認められるので債権者の仮処分事由は疎明があつたものと認める。
次に子の養育費即ち扶養処分請求権について、債権者債務者間に如何なる権利義務関係があるか、又如何なる権利義務関係(扶養の方法内容)に改訂形成せらるべきかについて検討することにする。
この点について債務者は債権者が扶養に関する権利を放棄したと抗争するところであるけれども、債権者がその親権に服する子の法定代理人として放棄をなしたとすれば、それは将来の扶養請求権の放棄として無効であり、又仮りに債権者が債務者と同様に扶養権利者であるその間の子に対する扶養義務者として債務者に対して扶養義務分担を求める権利を放棄したというのであれば、その放棄は当事者間においてのみ、一つの扶養協議として有効なこともあり得ようが、将来の事情の変更によつては、その放棄は、即ち分担義務免除の協議は又改訂せられるばかりでなく、本件債権者が扶養に関する権利を放棄したという債務者依用の一切の疎明方法は前認定に係る離婚の経緯に徴して措信できないから、債権者は債務者に対する子の扶助についての権利関係は依然存在していると解される。
それでは子の扶養について当事者間に如何なる権利関係が存在しているかというに、債権者の尋問の結果により成立の認められる疎甲第四号証並に当事者弁論の趣旨に徴すれば一応子の養育費の分担については当事者間において債務者は債権者に対して一ヶ月金三千円宛を分担支払う旨の協議が成立し、それに基いて昭和三十三年一月乃至三月迄の債務者の分担分は債権者に支払わせたものであることが認められる。従つて若し債権者が右協議に基き債務者に対して、その遅滞した扶養料についての請求権を確保するための保全手続であればその遅滞扶養請求権は損害賠償債権に転化しているものであるから、損害賠償請求権の確認を本案とする簡易又は地方裁判所における保全手続によるべきであるが若し将来に対する扶養内容の改訂を求める権利保全のためのものであれば、扶養処分の内容如何によつて、保全手続の必要はないとはいえない。又仮りにこれが必要がないとしても、本件においては債権者は債務者に対して財産分与請求権を有すること前認定の通りであり且財産分与と養育費の分担は互に関連するものであるから、扶養料等請求権確保のための保全手続が理由ないとしても、財産分与請求権を保全するための仮処分として、理由のある限り、全般として本件仮処分を求める債権者の申立はこれを不法とすることはできない。
右の事情であるから債権者が財産分与の審判を求め、それが確定に至る迄前記(イ)(ロ)の不動産について、その譲渡質権、抵当権、賃借権の設定その一切の処分行為の禁止を求める本件仮処分は理由があるので、当裁判所が先になした仮処分決定はこれを認可すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。
(家事審判官 村崎満)